世界中で愛されている小説家、村上春樹さん。毎年ノーベル平和賞の発表時期になると「今年こそ受賞されるのでは?」と話題になるほど、村上さんは日本で最も有名な作家の一人です。
数々の名作を生み出してきた村上春樹さんですが、その才能はデビュー作からすでに花開いていたと言っても過言ではありません。
そこでこちらの記事では、私の大好きな村上春樹さんの初期の名作をまとめました。
デビュー作「風の歌を聴け」から「スプートニクの恋人」まで。本当に素敵な作品ばかりですので、まだ読んでいない小説があれば、ぜひ手に取ってみてくださいね。
『風の歌を聴け』
あらすじ
東京の大学に通う主人公の「僕」は、夏休みに生まれ育った海辺の街に帰省して、親友の「鼠」とともに退屈な時間を過ごしていた。
とりつかれたようにビールを飲みながら、いつものように気だるい日々を過ごしていた「僕」だが、ある日「ジェイズバー」の洗面所で酔いつぶれている女の子を見つけて介抱することに。
女の子の左手には小指がなく、心はどこか疲弊していた。
「時々ね、誰にも迷惑をかけないで生きていけたらどんなに素敵だろうって思うわ。できると思う?」
誤解から始まった2人の関係は徐々に親密になっていくけれど、「僕」がこの町にいられるのは夏休みの間だけ。
大人の入り口で葛藤する若者の、戸惑いと痛みをほろ苦く描いた青春小説。
村上春樹さんは、この作品で第22回群像新人文学賞を受賞し、小説家としての生活をスタートさせます。
『1973年のピンボール』
あらすじ
突然あらわれた双子の女の子と3人で暮らしながら、思い出のピンボール・マシンを探し続ける「僕」。
絡まる糸をたぐり寄せるように、一歩ずつピンボール・マシンへと近づいて行くけれど、ゴールにたどり着いた僕を待っているのは大切な人との別れでもあった。
僕たちは三人でコーヒーを飲んだり、ロスト・ボールを捜しながらゴルフ・コースを夕方散歩したり、ベッドでふざけあったりして毎日を送っていた。メインアトラクションは新聞解説で、僕は毎日一時間かけて二人にニュースを解説した。二人は驚くほど何も知らなかった。ビルマとオーストラリアの区別さえつかなかった。
『風の歌を聴け』の続編として書かれた『1973年のピンボール』は、大学を卒業して翻訳家として生活を始めた「僕」が、鼠やジェイとの懐かしい記憶を求めて、ピンボールマシン「スペースシップ」を探し歩くというストーリー。
とても風変わりでシュールな内容ながら、どこか胸の奥が締め付けられるような不思議な感覚を味わえる作品。これぞ村上ワールドと言っても良いのではないでしょうか。
『羊をめぐる冒険』
あらすじ
大人になり結婚をして、相棒と小さな事務所をひらいた「僕」だったが、ものごとは少しずつ悪い方向へ傾きはじめていた。
離婚した妻は「僕」のもとを去り、相棒はアルコール中毒で自暴自棄を起こし、親友の鼠は2通の手紙を残して姿を消した。
あるものは忘れ去られ、あるものは姿を消し、あるものは死ぬ。そしてそこには悲劇的な要素は殆どない。
鼠から最後に届いた手紙には、羊の群れのモノクローム写真が同封されていた。「これをどこでもいいから人目につくところにもちだしてほしい」
親友の願いにこたえるために、「僕」は羊の写真を生命保険会社のグラビアページに掲載するが、そのせいで、なぜか右翼の大物に目を付けられてしまう。
鼠が送ってきた羊の群れの写真。そこに映り込んでいる一頭の奇妙な羊を捜し出すように命じられた「僕」は、魅力的な耳を持つ新しい彼女を連れて、北海道まで旅立つことに。
新しい彼女と愛を育みながら、北海道の地で羊に翻弄される「僕」。羊をめぐる冒険とは一体何なのか、鼠はどこへ行ってしまったのか。そして、山奥の牧場で出会った羊男の正体とは…。
「俺は俺の弱さが好きなんだよ。苦しさや辛さも好きだ。夏の光や風の匂いや蝉の声や、そんなものが好きなんだ。どうしようもなく好きなんだ。君と飲むビールや……」鼠はそこで言葉を呑みこんだ。「わからないよ」
『羊をめぐる冒険』は、「風の歌を聴け」から続く「鼠」三部作の完結編です。
学生時代から経営していたジャズ喫茶「ピーターキャット」を閉店し、村上春樹さんが専業作家として初めて執筆した作品。
1頭の羊に翻弄される「僕」の物語を読み進めるうち、まるで自分も北海道の地で羊を探し歩いているような気分になります。
『カンガルー日和』
『カンガルー日和』は、それまで中長編の小説を書き続けていた村上春樹さんにとって、初めての短篇集でした。
月曜日の朝に彼女を連れて、1カ月前に産まれたカンガルーの赤ちゃんを見るために動物園へ出掛ける表題作『カンガルー日和』をはじめ、『4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて』や『あしか祭り』、『チーズケーキのような形をした僕の貧乏』など、村上春樹さん独特の世界観が存分に詰めこまれた18のストーリーを読むことができます。
中でも『図書館奇譚』では、村上春樹ファンには思い入れの深い「羊男」が出てくる場面がひじょうに印象深いです。
羊男の作る「カリッとして、とても良い味」のドーナッツ、読んでいるだけで味わっているような気持ちになるのが不思議です。
短いながらもズシンと心に残る短篇ばかりで、何度読み返しても楽しめる作品ですよ。
『ノルウェイの森』
喪失と再生を経験し、人は少しずつ成長をする。
村上春樹さんの「ノルウェイの森」は、かけがいのない大切なものを奪われた1人の若者の喪失感と、そこからの再生を淡々と美しく描ききった長編小説です。
詳しいレビューは、こちらの記事を読んで下さいね。
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『スプートニクの恋人』
あらすじ
学生の頃から思いを寄せていたすみれに「恋に落ちた」と告げられた「僕」。その恋の相手は「僕」ではなく、年上の女性ミュウだという。
動揺しながらも、今まで通りすみれの良き理解者であろうとする「僕」だが、すみれの心はミュウのことで満たされ、他のことは何も受け付けられないほど切迫した状態に陥っていく。
ミュウの仕事上のパートナーになったすみれは、一緒にヨーロッパ旅行へ出掛けるが、旅先ですみれだけが行方不明になってしまう。
その知らせをミュウから聞いた僕は、急いでギリシャの島へ駆けつける。
わたしはミュウを愛している。いうまでもなくこちら側のミュウを愛している。でもそれと同じくらい、あちら側にいるはずのミュウのことをも愛している。
ギリシャの島ですみれが残したメッセージを読み解き、捜索を続けるが、結局すみれを見つけることはできない。
「僕」は、すみれのいなくなった世界で、ミュウとともに途方に暮れてしまう。
『スプートニクの恋人』は、村上春樹さんが「これまでに培ってきた文体を徹底的に検証しよう」という気持ちで執筆した意欲作です。
ねじれていく世界の中で、人はどのように変化して成長を遂げるのか。
「前触れなく誰かが急にいなくなったとしても僕は不自然に思わない」と言う村上さん。この小説の中には、さまざまな謎が自然な形をして存在しています。
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