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『ねじ式』だけじゃない!つげ義春のおすすめ人気漫画のあらすじをテッテ的に解説します

つげ義春: 夢と旅の世界 (とんぼの本)
1960〜70年代、「ねじ式」や「ゲンセンカン主人」などのシュール漫画でカリスマ的な人気を集めたつげ義春さん。
2017年には、「つげ義春-夢と旅の世界」で日本漫画家協会賞、大賞も受賞され、あらためて「つげ作品」の素晴らしさがクローズアップされています。
十代の頃からつげさんの描く漫画にどっぷり影響され、いまだに何度もつげ作品を読み返してしまう…。
そんな私としては、今更のようにまた「つげ義春の漫画」が評価され、注目を浴びていることは嬉しいかぎり。
ということで、今回は、つげ義春の漫画を読み尽くしているつもりの私が、「つげ義春-夢と旅の世界」に収録された人気漫画を1つずつ紹介していきます。
まだ「つげ義春の世界」にふれたことがない人も、「最近つげ義春読んでないなぁ〜」って懐かしく感じている人も、この機会にぜひまたつげさんの漫画を読んでみてもらえたらいいなと思っています。

目次

つげ義春のおすすめ人気漫画!

漫画家協会賞大賞に選ばれた「つげ義春-夢と旅の世界」には、「ねじ式」「ゲンセンカン主人」「紅い花」「外のふくらみ」の4作品の原画が掲載されています。
どの作品もそれぞれ素晴らしく、評価の高い漫画ばかりです。簡単なあらすじと解説を書いておきますので、気になった人はチェックしてみて下さいね。

『ねじ式』

出典:つげ義春「ねじ式」
「ねじ式」は、1968年『月刊漫画ガロ6月増刊号』の「つげ義春特集」で発表されました。
とにかくシュールで前衛的で、漫画の枠を軽々と飛び越えてしまっている作品です。

「ねじ式」あらすじ

たまたま泳ぎに来た海辺で「メメクラゲ」に左腕を刺されてしまった主人公。
「出血多量で死ぬかも知れない」
という恐怖を抱えながら医者を捜し歩くが、慣れない漁村で医者を見つけるのは簡単ではなく…

「よしこうなったら徹底的に村中を捜すぞ」
「いやこの場合、テッテ的というのが正しい文法だ」
「ちくしょう目医者ばかりではないか」

出典:つげ義春「ねじ式」
漁村で医者を捜しまわる主人公に「どんな医者を捜しとるのかね」と声をかける老婆。
「産婦人科です、できたら女医が絶対に必要なのです…」と答える主人公は、ふと気がついたように、
もしかしたらあなたはぼくのおッ母さんではないですか
と、老婆にたずねます。

ねッじつはそうなんでしょう
ぼくが生まれる以前のおッ母さんなのでしょう

老婆の案内でようやく産婦人科を見つけた主人公は、産婦人科の大きなビルに向かいながら…

でも
考えてみれば
それほど
死をおそれる
ことも
なかったん
だな

考えてみれば、それほど、死をおそれる、ことも、なかったん、だな
不意打ちのように目に飛び込むこのセリフ…必死でさがしていたはずの産婦人科に、飛び込む間際に、突然たどりつく真理…
このセリフに衝撃を受けた読者は、私だけではなかったと思います。
「ねじ式」は、つげ義春さんが実際に見た夢が創作のきっかけになっているといわれています。
まさに読みながら本当に夢の中を漂っているようなマンガで、目の前に広がる新世界の風景にただただ圧倒されてしまうのです。
この作品はきっと、100年後に読み返しても「新しい」と感じられるのではないでしょうか。

『ゲンセンカン主人』

出典:つげ義春「ゲンセンカン主人」
「ゲンセンカン主人」は、1968年に『ガロ』に発表された短篇漫画です。
自身の漫画を描きながら、生活のために水木プロで水木しげるさんの漫画の手伝いをしていたつげさんは、過労で腱鞘炎を患い、湯治のために訪れた湯宿温泉で体験したできごとが「ゲンセンカン主人」のモチーフになっています。

「ゲンセンカン主人」あらすじ

旅の途中、ふらりと立ち寄った静かな町になぜか親しみを感じる主人公。初めて来たはずなのに、以前からずっと知っている場所のような感覚が…
不思議に感じながら町を歩いていると、駄菓子屋の老婆から「ゲンセンカンの旦那にそっくりだ」と言われます。
なんでもゲンセンカンの旦那は、身内も無く1人でゲンセンカンを切り盛りしていた耳と口の不自由なおかみさんを風呂場でおそい、そのままゲンセンカンの主人になったのだとか。

つまり二人はできちゃったってわけさ
かみさんは大喜びだよ
なにしろ売れ口がなかったんだからね

そんなにゲンセンカンの主人に似ているなら、試しにゲンセンカンに泊まってみよう。
そう言いだした主人公を、老婆達が必死で引き止めます。

そんなことをしたらえらいことになるよ
だってあんたは
あんたは
ゲンセンカンの主人にそっくりじゃないか
だれか早く
ゲンセンカンに報せておいでよッ!

風が吹き荒ぶ中、天狗のお面をかぶってゲンセンカンの門をくぐる主人公。
はためく洗濯物や舞い上がる木の葉の中で、恐れおののくゲンセンカン主人とおかみさん。印象的なクライマックスです。

この臨場感は何なのか

つげ義春の漫画で私が初めて読んだのが「ゲンセンカン主人」でした。きっかけは友達にすすめられたことですが、読んでみて、とにかくビックリしたのです。
なんだこれは…、という。
ふらりと立ち寄った町に、自分に良く似た男がいるという。その男はゲンセンカンのおかみさんと出来て、ゲンセンカンの主人になったのだと。
ただそれだけのストーリーなのですが、臨場感が半端無い。
漫画なのに、もうその世界に身をおいているような、吹き荒ぶ風を頬に受けているような、そんな生々しい感覚です。
耳の不自由なおかみさんが、風呂場で全裸に大きな数珠を振り回して一心不乱に拝んでいて、それを後ろから抱きすくめる男。その描写は恐ろしく不気味でエロティックなのです。

『紅い花』

出典:つげ義春「紅い花」
「紅い花」は、『ガロ』1967年10月号に掲載された短篇漫画です。
つげ義春さんの漫画は、まるで幻想の中を歩いているような前衛的で不思議な作品と、ほのぼのとした温かみだったり、生活の苦しさや悶えを感じられるような日常的な作品の2つの種類に分けられます。
ただ、「紅い花」は例外で、その2つの要素が合体してできたような作品になっているのです。

「紅い花」あらすじ

釣り人の主人公は、山中の小さな売店で店番をしていた少女キクチサヨコと出会います。
少女に「寄っていきなせえ」と声をかけられた釣り人。「よい釣場はあるかネ」とたずねると、少女は「シンデンのマサジなら知っている」と答えます。

「あいつは根性まがりのいけすかんやつじゃ
毎日私をいじめにくるのです」
「それが釣場を知っているというのかネ」
「おっつけくる頃じゃろ
おそいときは大抵学校で
立たされとるのであります」

マサジと一緒に沢をおり、 ヤマメがよく釣れるという場所に案内されていた釣り人の目の前には、一面にみごとな紅い花が咲き誇っていたのです。

「あのみごとな紅い花はなんというのだろう」
「知らん
ときおりイワナが食べておるけど
通じをよくするためじゃろ」
「へえ?
魚が花を食べるのかネ」

道中、親がだらしなく学校にも行けないという、キクチサヨコの不幸な身の上を釣り人に話して聞かせるマサジは、1人で釣場から帰る途中、川の中でしゃがみ用を足すキクチサヨコを見つけるのです。
下半身をあらわにして川にしゃがみこむ少女を不思議に思うマサジは、食い入るようにその光景を眺めます。
すると、少女の足元から流れるものを隠すように、真っ赤な花びらがポタポタといくつも川に落ちて、流れながらどんどん渦を作っていくのでした。

花だ!
花だ
紅い花だ!

「腹がつっぱる 」と言い、河原に倒れ込むキクチサヨコに、「店をたたんではどうじゃ」と心配するマサジ。
草の生い茂る夏の山道、キクチサヨコを背負って山を下りながらマサジがつぶやく最後のセリフは、温かくて優しくて心に沁みます。
少しずつ大人に成長していく少女の神秘性と、少年が少女を意識して大人の男の階段に一歩踏み出そうとする瞬間を美しく切り抜いて描いた作品です。

『外のふくらみ』

出典:つげ義春「外のふくらみ」
「外のふくらみ」は1979年5月『夜行8』に掲載された短篇漫画です。
全15頁というひじょうに短い作品なのですが、そのインパクトはかなり大きく、1度読むとたぶん死ぬまで忘れないと思います。
当時、つげ義春さんはノイローゼを患い、その状態で執筆された作品の中の1つです。

「外のふくらみ」あらすじ

男が朝起きると、なんだか外がふくらんでいるような気がする。
ご飯を炊きながらも気になって不安だったが、ついには外が窓ガラスを割って家の中に侵入してきてしまった。
「かえって外に出た方が安全かもしれない」
そう考えた男は外に出ようとするが、意外にも外は弾力があって苦しくて窒息しそうになる。
ようやく町に出ると、町は普段通りで何事があったのか分からない。
何があったのか確かめようと歩いているうちに、出口の無い地下道に入り込んでしまい…
この作品は、「つげ義春とぼく」に収録された自身の夢を元に描かれました。
精神疾患で「出口の無い不安」に苛まれていたであろう作者の、心象風景がそのまま表された漫画で、これまでの人生で苦労を重ねて来たつげさんが抱えているトラウマさえ感じられます。
「外のふくらみ」は、こちらの短篇集に収録されています。

原画も良いけれど

つげ義春さんの漫画はこの4作品以外にも大好きなものがたくさんあって、時間があればまた他の漫画も紹介したいと思っています。
今回の漫画家協会賞に選ばれた「つげ義春-夢と旅の世界」には4作品が原画の状態で掲載されているのですが、できれば原画ではなく短篇集を読んでみた方が、つげ義春さんの漫画世界が理解しやすいかも知れません。
今後つげさんが再びペンを握ることは無いでしょうから、たとえ過去の作品でも、今手に入るものを大切に読み続けていきたいです。

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